品質管理とは
品質管理の講義で使用している教材
なぜ、事故は繰り返されるのか(その1)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その2)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その3)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その4)
 なぜ、事故は繰り返されるのか(その5)
 なぜ、18年間無事故だったのか
なぜ、事故は繰り返されるのか(その7)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その8)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その9)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その10)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その11)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その12)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その13
なぜ、事故は繰り返されるのか(その14)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その15)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その16)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その17)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その18)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その19)
参考文献
−「特別採用」は例外措置、軽々しく使用すべからず−
1.不祥事の概要
 1)2017年10月8日、株式会社神戸製鋼所は、アルミや銅製品の一部について、強度などを偽って出荷していたと発表した。11月10日、「当社グループにおける不適切行為に係る原因究明と再発防止対策に関する報告書」を公表した。
 発表によると、検査証明書のデータの書き換えなどにより出荷された製品は、アルミ製品(板、押出品)約19,300トン、銅製品(板条、管)約2,030トン、アルミ鋳鍛造品約19,400トンとなっている。
 2)2017年11月23日、三菱マテリアル株式会社は、子会社3社で検査データの不正があったと発表した。
 3)2017年11月28日、東レ株式会社は、子会社で生産するタイヤ補強材の品質データが不正に書き換えられていたと発表した。
 なお、特徴的なことは、3社はいずれも素材を製造する「素材系メーカー」であることである。
2.直接的原因
 ここで、直接的な原因とされたことは以下の点であった。
 1)品質よりも納期を優先したこと
 2)「特別採用」という例外措置を悪用したこと
 本来は、なぜ顧客が要求する品質を達成する製品が製造されなかったのかを究明せず、検査不合格のものを「検査データ」を書き換え、ごまかすという手段をとることにより顧客の納期を守ろうとしたことではないだろうか。
 なお、「特別採用と呼ぶ日本独自の商慣行が隠れみのになった」と新聞等に記載されていたが、「特別採用」は日本独自の商慣行ではない。ISO9001にも「特別採用」について規定されている。経営者がこんな感覚だから問題を起こすのではなかろうか。
 「特別採用」は、非常手段としての例外措置であり、どのような場合に、どのように運用すべきか、幹部はじめ従業員に教育していなかったことが問題なのである。したがって、「特別採用」の運用規定も制定されていかっということであろう。
 3)本来は、「規格外品」あるいは「訳あり品」として出荷すべきものを、「特採品」としたり、「検査合格品」とよそおったりしたことである。
 こんな姑息なことをすれば、信用を失墜するだけである。日本の製造業を支えてきた「日本的品質管理」はどこへいってしまったのだろうか。
 4)品質管理教育の欠如である。もういちど原点に返って品質管理教育をすべきではないだろうか。
3.「特別採用」の定義
ISO9001:2015では、「特別採用」について以下のように定義している。
 規定要求事項に適合していない製品又はサービスの使用又はリリースを認めること
注記:通常、特別採用は、特定の限度内で不適合となった特性を持つ製品又はサービスを引き渡す場合に限定される。また、製品又はサービスの数量又は期間を限定し、また特定の用途に対して与えられる。
 ここで、重要なことは、不適合の製品又はサービスについて、容易に「特別採用」としてよいと言っているわけではないことである。その運用ルールを決めておかなければいけにのである。また、不適合品といっても、「特定の限度内で不適合となった特性をもつ製品又はサービス」に限ること、数量と期間、用途を限定しなければいけないことである。そう考えていくとかなり運用は限定されることになってくる。
4.「特別採用」を運用する場合の注意点
 1)顧客に約束した納期までに、顧客の要求する品質基準を満たす製品又はサービスを納入できないとわかったときに、納期の変更をお願いすることである。
 しかし、顧客にも都合があるから納期の延期が認められない場合が多い。
 2)顧客の要求する品質基準を満たす製品又はサービスを納期までに納入されないと顧客の業務に支障をきたすことになる。
 3)そこで、例外措置として、顧客が要求する品質基準を満たすことができない製品又はサービス(これを「不適合品」という)を納入することを「特別採用」という。当然ながら、この「不適合品」は検査不合格となっている。
 ここで、「不適合品」の品質レベルであるが、ISO9001では、「特定の限度内で不適合となった特性を持つ製品又はサービス」と限定していることである。
 さらに、数量、期間、用途を限定することも要求している。
 ISO9001では明記はしていないものの、この「特別採用」を誰が承認するかである。少なくとも検査担当者の判断では拙いのは当然である。顧客が承知したかどうかは別問題であり、顧客もどのような立場の人が承認しているかが問われるのである。
 「不適合品」を「特別採用」として顧客に引き渡すにあたっては以下の点を順守しなければならない。
 それは、以下の事項を記載した文書を顧客に提出して、顧客の許可を得てから出荷しなければならない。
 @該当する製品又はサービスの受注日および当初の納期と数量
 A特別採用とする製品又はサービスの名称、型式および数量
 B不適合の内容および使用するときの制約事項
 C特別採用としなければならない理由
 D特別採用とする製品又はサービスの顧客先での用途および使用期間
 E所定の品質の製品又はサービスを再納入する場合、顧客と合意した期日
 F「不適合品」を所定の品質の製品又はサービスと交換する期日
 G「不適合品」が顧客のところに残っていないことを顧客立会の下で確認する場所と日程
 H自社における承認者
 I顧客先の承認者
 J顧客に通知した日時
 なお、「不適合品」を所定の品質の製品又はサービスと交換できない場合、あるいは「不適合品」が顧客のところに残っていないことを確認できない場合には「特別採用」とすることはできない。あくまでも、「特別採用」は例外的な措置であるから、「特別採用」として納入した不適合品は所定の品質の製品又はサービスと交換して、顧客先に不適合品が残っていてはいけないのである。間違っても、「特別採用」で引き渡した製品又はサービスを「検査合格品」と混同してはいけないのである。
5.再発防止対策
 1)「特別採用」は例外措置なのであるから、運用に当たっては「検査規格」などに運用手順を整備又は見直ししなければいけない。
 2)その中に、「承認手順」がどうなっていたかが問題であり、見直し、修正する必要がある。
 3)品質管理教育が形骸化していないか。特に、異常事態とか緊急事態の場合の判断基準、命令系統を見直さなければいけない。
 4)神戸製鋼所の「当社グループにおける不適切行為に係る原因究明と再発防止対策に関する報告書」を読んでも記述されていないが、なぜ、顧客が要求する品質基準の製品又はサービスがつくられなかったのか、工程にも問題があるはずである。「工程の要素」を構成する4M(原料・材料、人、機械・装置および手順書・操作方法)を見直して改善する必要がある。
 この問題を検査だけの問題としてしまってはまたいつか同じような問題が再発すると思われる。
6.参考文献
 1)「神戸製鋼、アルミ部品など検査データ改ざん 管理職関与」(朝日新聞 2017.10.8 14:16)
 2)「当社が製造したアルミ・銅製品の一部に関する不適切な行為について」(株式会社神戸製鋼所 2017.10.8)
 3)「経産省、神戸製鋼所にデータ改ざん究明指示 納品先にも安全検証要請」(日経新聞2017.10.10 19:27)
 4)「神鋼は取締役会に報告された鉄鋼不正をなぜ隠したか」(毎日新聞編集部2017.10.17)
 5)「神戸製鋼不正「40年以上前から」元社員証言」(毎日新聞2017.10.17 23:26)
 6)子会社・コベルコ科研も製品検査データを手書き 神鋼」(gooニュース2017.10.18 6:5)
 7)「当社グループにおける不適切行為に係る原因究明と再発防止対策に関する報告書」(株式会社神戸製鋼所 2017.11.10)
 8)「神鋼改ざん 拭えぬ不信 不適合品の「特採」悪用」(日本経済新聞2017.11.20 2:15)
 9)「三菱マテ系3社で品質不正、258社に出荷 24日会見」(日本経済新聞2017.11.23 23:00)
 10)「三菱アルミ検査データ改ざん 商慣行悪用し無断で納入」(東京新聞2017.11.30 08:57)
 11)「東レ子会社でデータ改ざん タイヤ補強材、不正書き換え」(朝日新聞2017.11.28 11:17)
 12)「東レもはまった「特採」のわな データ改ざんそこなし」(日本経済新聞2017.11.28 14:32)