−シンドラー社エレベーターの事故− |
1.事故の概要 |
その1:2006年(平成18年)6月3日午後7時30分、東京都港区シティハイツ竹芝で、男子高校生が自転車と一緒に後ろ向きに出ようとしたところカゴが上方向に動き出したためカゴ床と乗り場上枠の間に挟まれて死亡した。 |
その2:2012年(平成24年)10月31日午後、金沢市内のホテル「アパホテル金沢駅前」で、エレベータに乗ろうとした清掃員の女性(63)が、カゴと扉上部の枠に挟まれて死亡した。 |
因みに、この2つの事故には、以下の共通点がある。 |
@事故を起こしたエレベータは、シンドラー社製であること |
A乗り降りの際に突然暴走したこと |
上記の死亡事故の他に、シンドラー社製のエレベータは、日本国内で死亡事故とはならなかったものの多くの事故が発生していることが分かっている。知られているだけでも以下の事故がある。 |
@2007年5月、東京都杉並区のマンションでエレベータのワイヤーが一部破断 |
A2007年9月、大阪府堺市の娯楽施設でエレベータが上昇途中で降下し、一時乗客が閉じ込められた |
B2007年10月、大阪府の警察署のエレベータが無人のまま最上階まで上昇して天井に衝突して停止 |
C2010年11月、東京大学柏キャンパスで学生18人が乗ったエレベータが、扉が開いたまま地下一階に降下(1人が軽傷を負う) |
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2.原因 |
上記の平成18年に発生した事故に関して、シンドラーエレベータの東京支社の元保守部長ら5人が起訴されものの、同社は「事故前の点検では、ブレーキに関する装置に故障はなかった」と主張して、17回にも及ぶ「公判前整理手続き」にもかかわらず、初公判の日程が決まらないそうです。 |
したがって、原因は不明のままである。 |
なお、シティハイツ竹芝での事故について、社会資本整備審議会 建築分科会 建築物等事故・災害対策部会昇降機等事故対策委員会が、平成21年9月8日に公表した事故報告書があります。こちらをご覧ください。 |
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3.教訓 |
(1)畑村洋太郎氏(東京大学名誉教授)は、著書「だから失敗は起こる」の中で、「本質安全」を強調している。「本質安全」を避けたり、欠落したりした装置やシステムは、いつかは事故が起きるというものである。 |
東京都港区六本木の六本木ヒルズ回転ドア死亡事故に見られるように、「本質安全」の弱点を制御機構によって解決しようとした(「制御安全」という)ために、事故に至った。 |
(2)ところが、「本質安全」を図り安全性や信頼性に力を入れるとコストがかかり、製品が高いものになってしまう。つまり、コスト削減か、安全性の強化かということになり、企業の経営戦略にかかわった問題となる。だから、事故が起きた時に「製品の欠陥」を容易に認めないわけである。 |
(3)外資系のエレベータ会社は、安全性をできる限り抑えて、販売価格を下げる戦略をとっているようです。しかし、安全性と価格(売値)とを天秤にかけるという考えあは基本的におかしい。安いものを買ったのだから事故が起きても責任はないと言っているようなものである。「企業の社会的責任」なんてないことになる。しかし、自治体などは価格が安ければいいと入札価格だけで決めてしまうことにも問題がある。価格が安いのは安全性を抑えている(オプションになっている場合もあるらしい)ということを認識しなければいけない。 |
(4)購入する側では価格は数値ですぐわかるが、安全性や信頼性については数値で捉えようがない。法律で安全性を義務付け、違反したら厳罰と損害賠償責任を負わせるしかない。しかし、違反しているかどうかは、事故が起きてみないとわからない。 |
「製造物責任法(PL法)」があって、製造物の欠陥による人命や資産に対する損害に対して損害賠償責任」を課している。しかしここにも問題がって、製造物の欠陥と事故の因果関係について賠償を請求する側が立証しなければならない。 |
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4.再発防止対策 |
平成18年6月に発生した東京都港区シティハイツ竹芝のエレベータ死亡事故を受けて、国土交通省は「建築基準法施行令の一部を改正する政令」(平成20年政令第290号)制定し、平成21年9月28日に施行された。 |
その政令改正の概要は以下のようです。 |
(1)戸開走行保護装置の設置義務付け |
(2)地震時管制運転装置の設置義務付け |
(3)その他 |
エレベータの安全に係る技術基準の明確化等 |
なお、詳細はこちらをご覧ください。http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_fr_000012.html |
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問題点: |
(1)上記の政令は、平成21年9月28日以降に新設されるエレベータには適用されるが、それ以前に設置されたエレベータには適用されない。したがって、上記の政令による安全対策の強化は、現在稼働中のエレベータには適用されないので、危険なエレベータが稼働していることに変わりはなく、同種の事故は再発する恐れがあるということである。 |
やはり、現在稼働しているエレベータすべてに、「建築基準法施行令の一部を改正する政令」(平成20年政令第290号)による安全対策を義務付けるべきである。 |
因みに、シンドラー社製のエレベータは国内で約8,000台稼働しているそうである。この中で、安全対策が施されているものは、数10台に過ぎないという報道もある。 |
この根底には、安全対策の費用を顧客が持つのか、シンドラー社が持つのかに原因があるように思われる。恐らく、顧客側としては、安全対策は当たり前であるからシンドラー社が負担すべきと考えるでしょう。ところが、シンドラー社は最初からコストを下げていただけに容易には認めないでしょう。 |
(2)したがって、シンドラー社製エレベータを設置している建物を運用しているところは、安全性に対する認識をきちっと持たなくてはならない。シンドラー社エレベータを購入したのは自分であると認識して対応することしか再発防止策はないということになる。 |
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