−最悪事態を想定した設計を・・・関西空港と北海道電力− |
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1.事故の概要 |
1.1 関西空港の水没と連絡橋の破損 |
1)2018年9月4日正午頃、四国徳島県南部に上陸した台風21号は、14時頃神戸市付近に再上陸した。この台風による高潮(観測史上最高の潮位)により関西空港はA滑走路と第1ターミナルビルが水没した。 |
午後3時に空港を閉鎖する事態となり、約3000人の利用者が閉じ込められた。関西空港にはA、B2本の滑走路があったが、A滑走路はとりわけ低かったので約50cm水没した。 |
2)また、、第1ターミナルビルでは、地階にある6台の電源設備の半数が水没したことにより、停電および館内放送が不通となり、エアコンの稼働も停止した。特に第1ターミナルビルは一面が水浸しとなった。 |
3)さらに、タンカー(宝運丸、全長89m,2591トン)が、航空機燃料を陸揚げした後、投錨して停泊していたが、強風にあおられて流され連絡橋に激突し、連絡橋は大きく損壊し、自動車道の片側車線および鉄道も運行できなくなった。 |
1.2 北海道電力で初のブラックアウト発生 |
1)2018年9月6日午前3時8分頃、北海道胆振(いぶり)地方東部を震源とするM6.7,最大震度7の地震が発生した。震源地に最も近い苫東厚真火力発電所(厚真町,出力165万kw)が緊急停電した。これに伴って電力の需給バランスが崩れて周波数の維持ができなくなり、残る4カ所の火力発電所も緊急停止した。この結果北海道全域の295万戸が停電し、初めてのブラックアウトとなった。 |
2)苫東厚真火力発電所には、3基の設備(1号機,2号機,4号機)があったが、4号機は地震発生直後再稼働作業中にタービンから出火し、1号機と2号機はボイラーが破損していた。復旧までに1週間以上かかる見通しという。 |
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2.原因 |
2.1 関西空港の水没と連絡橋の破損の原因 |
1)関西空港が水没した原因は、台風21号による高潮と海面潮位の上昇によるものであるが、空港が海面から1.4mしかなく、運用開始時から3.4mも地盤が沈下していたことによる。海上に空港があるのは、関西空港のほかに神戸空港、中部空港、北九州空港、長崎空港がある。神戸空港は海面から5.2mあるので、水没していない。なお、「空港島の埋め立て設計が間違っていた」という意見もある(参考文献 3)参照) |
2)その上に、第1ターミナルビルも水に漬かっているだけなく、地下1階には電気設備を設置しており、空港が水没する危険性を認識していなかったと思われる。空港が海上にあるから高潮などにより水没、または水をかぶるという最悪事態を想定してターミナルビルを含む空港建設をしていなかった(ここに、設計ミスの要因がある)。 |
3)タンカー(宝運丸)の連絡橋激突については、巨大な台風が迫っていることに対する危機感が船長に欠けていたと思われる。風向き、台風の強さ・大きさなどを考慮したら、目の前に連絡橋を控えており、錨を下ろして停泊する場所にふさわしくないと容易に分かる筈である。判断の誤りと思われても仕方がない。船長は「安全と思った」と言っていたが、これは明らかに判断ミスである。 |
4)さらに、連絡橋の設計という観点で見ると、船舶が連絡橋にぶつかるという可能性はあり得ることであり、衝突防止対策としてのガードなどを設ける配慮が必要であった。また、、もし船舶がぶつかった場合にはどのようなことになるかという最悪事態を考慮した設計が欠けていたと思われる。 |
5)連絡橋が長期間不通となるという最悪事態が発生すると空港運営会社の事業継続(BCP)が困難になるということを想定した地震・津波・台風などの災害対策および危機意識が欠けていたと思われる。 |
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2.2 北海道電力での初のブラックアウトが発生した原因 |
1)直接原因は、地震の発生であり、地震の発生により苫東厚真火力発電所が壊滅的状態になったことである。 |
2011年東日本大震災後、社内で耐震基準を見直した際、「変更不要」と結論し、苫東厚真発電所の発電機はは、耐震基準上震度5相当であった。 |
北海道には、苫東厚真火力発電所のほかに、奈井江火力発電所1号機(17.5万kw)、伊達火力発電所2号機(35万kw)、知内火力発電所1号機(35万kw)が稼働していた。 |
2)つまり、苫東厚真火力発電所が北海道の使用電力の53%を占めていたことが最大の原因である。 |
3)苫東厚真火力発電所の依存度が高いことに対する危機意識は持っており、2015年に小樽市にガス火力発電所の新築工事に着手したが、完成予定は2019年であった。また、本州からの送電線の容量を1.5倍にする工事も進行中であるが間に合わなかった。 |
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3.対応措置 |
3.1 関西空港 |
1)9月8日、B滑走路と第2ターミナルによる暫定的な運行を開始 |
2)神戸空港、大阪伊丹空港への振分などが一部で行った |
3)連絡橋1車線を対面交通で運用 |
4)9月18日、連絡橋鉄道(JR西日本、南海電鉄)が運転再開 |
5)9月21日、第1ターミナルが全面的に営業再開し、国際線343便、国内線128便が発着可能となった。なお、連絡橋の全面復旧は2019年ゴールデンウイーク前の見込み。 |
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3.2 北海道電力 |
1)苫東厚真火力発電所の復旧は1週間以上かかるため、稼働休止していた老朽設備の再稼働により対応しているが綱渡りの状態が続いた。 |
2)9月19日、苫東厚真火力発電所1号機(定格出力35万kw)が復旧。25日、同4号機(70万kw)が復旧。10月10日、同2号機(60万kw)が復旧し、苫東厚真火力発電所(165万kw)が全面復旧。 |
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4.共通した教訓 |
1)関西空港も北海道電力も最悪事態の発生を特定していなかった |
2)最悪事態が発生した時にどのようなことになるかを想定していなかったことであり、最悪事態を想定したシステム設計がなされていなかったことである。「想定できなかった」では済まされないのである。 |
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5.参考文献 |
1)「<関空>重要施設、台風21号で機能せず 地下配置で浸水」(毎日新聞 2018.9.10 12:35配信) |
2)「関西空港の水没は起こるべくして起きた。〜地盤沈下で招いた標高1.4mの滑走路〜」(イケテル航空研究所 2018.9.4) |
3)「関西空港水没の原因は設計ミス!?」(小塩丙九郎の歴史・経済ブログ 2018.9.5 07:47) |
4)「電源設備水没で館内放送使えず 関西国際空港」(日本経済新聞 2018.9.6 19:50) |
5)「ダブルパンチ関空、運行再開に1週間程度か」(読売新聞 2018.9.5 6:11) |
6)船長、安全と思った・・・走錨多発の関空周辺」(YAHOOニュース 2018.9.9 9:26) |
7)「連絡橋の長期間不通、関空はBCPで想定せず 備え後手」(朝日新聞デジタル 2018.9.6 7:26) |
8)「空港ターミナル、全面復旧 台風被害から17日ぶり」(朝日新聞 2018.9.21 7:14) |
9)「大規模停電なぜ起きた?全火力発電所停止のワケと復旧のメド」(FNNPRIME 2018.9.6) |
10)「北海道地震の道内全域停電、大規模発電所1カ所への依存が原因、課題あらわに」(YAHOOニュース 2018.9.7 7:15) |
11)「初のブラックアウト最大火力停止が引き金」(日本経済新聞 2018.9.6 23:16) |
12)「事故後に北電が積み上げた電源はバックアップのないガラス細工だ」(北海道新聞 2018.9.9 14:24) |
13)「苫東厚真発電機、耐震は最低の震度5程度」(毎日新聞 2018.9.16 1:33) |
14)「苫東厚真発電所1号機の復旧(第3報)および今後の節電へのご協力のお願いについて」(北海道電力株式会社 2018.9.19) |
15)「苫東厚真発電所4号機が再稼働 復旧1か月以上の前倒し」(朝日新聞デジタル 2018.9.25 10:16) |
16)「苫東厚真発電所が全面復旧 北海道電力」(朝日新聞デジタル 2018.10.10 11:45) |
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