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なぜ、事故は繰り返されるのか(その1)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その2)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その3)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その4)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その5)
なぜ、18年間無事故だったのか
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なぜ、事故は繰り返されるのか(その8)
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なぜ、事故は繰り返されるのか(その16)  
なぜ、事故は繰り返されるのか(その17)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その18)  
なぜ、事故は繰り返されるのか(その19)
参考文献
- 台湾高速鉄道プユマ号脱線転覆事故と
ボーイング737MAX墜落事故の類似点 -
1.台湾高速鉄道プユマ号脱線転覆事故
 1.1 事故の概要
(1)2018年10月21日、8両編成の特急プユマ号が脱線転覆し、乗客366人のうち、死者18人、負傷者180人以上の大惨事となった。
(2)事故を起こした車両は、TEMU2000型で日本の日本車両製造(以下、日本車両)が製造し、2017年に大規模なメンテナンスが行われたという。
(3)列車は転覆の直前、制限速度(75キロ)を大幅に超える130〜140キロで走行していた。
(4)運転士からは事故発生の30分前から数回にわたり「列車の空気圧縮機の圧力が不足している」という連絡があったという。
(5)運転士は、「動力に問題があった」。速度を自動制御する「自動列車防護装置(ATP)を切った」と証言。台湾鉄道には「報告はなかった」。
 1.2 原因
(1)直接的原因は、半径300mのカーブ(制限速度75km/h)を時速140kmで突入したこと
(2)日本車両は、車両の安全装置「自動列車防護装置(以下、ATP)」に設計ミスがあった。本来は運転士がATPを切ると、その情報が運行を管理する司令員に自動で伝わる筈であったが、設計ミスのために伝わらなかった。
(3)設計ミスで配線の接続が仕様と一部異なり、指令所に情報を伝える機能が働かなかった。通常は車両が完成してから鉄道会社に納入されるまでに、車両が仕様通り造られているか入念なチェックが行われる。しかし、TEMU2000型では、ATPを切った際に指令所に情報が伝えられるかどうかチェックは行わなかった。台湾鉄道の指令所に情報が伝えられるかどうかのチェックは日本ではできない。このチェックは納入後台湾鉄道で行っているものと考えていた(日本車両)。
 1.3 事故の背景
(1)15:47  4分遅れて双渓駅を通過。双渓駅からエンジン車動力を切断、進行速度鈍化。亀山駅を14分遅れて通貨。宣蘭駅で車両検査を行う予定
  16:34  双渓駅からエンジン故障により速度鈍化。宣蘭駅を14分遅れで到着。車両検査でも修理不能。宣蘭駅を15分遅れて出発。花連駅で車両替えを計画(花連駅に到着することなくその手前の新馬駅で事故が起きた)
(2)台湾鉄道では、45分以上遅延が発生すると運賃全額を払い戻すというルールなっている(因みにJRでは、2時間以上遅延した場合には特急料金のみ払い戻す)
 1.4 参考文献
(1)台湾脱線事故「列車に不具合」運転士から連絡 車両は日本製(NHK news web 2018.10.22 12:06)
(2)<台湾特急脱線>制限速度の倍以上で走行か(毎日新聞 2018.10.22 2000配信)
(3)台湾・脱線事故 運転士「ATP切った」と証言(産経新聞 2018.10.23 12:22配信)
(4)台湾事故の車両に設計ミス 製造元の日本企業が発表(朝日新聞 2018.11.1 19:37)
(5)BLOG台湾「プユマ号脱線事故」根源にある「人的要素」と「構造的問題」・・・野嶋剛(2018.10.25 11.31 更新2018.10.25 11:35)
(6)台湾脱線車両「設計ミス」、海外で相次ぐ失態(東洋経済 2018.11.2 13:99)
(7)台湾脱線事故で発覚した日本車両の設計ミスはどの程度重大か(DIAMOND ONLINE 2018.11.4)
2.ボーイング737MAX墜落事故
 2.1 事故の概要
(1)2018年10月29日、インドネシア・ジャカルタ空港を離陸したライオン・エアJT610便ボーイング737MAXが離陸直後海面に墜落し、乗員・乗客189名が死亡した。
(2)事故機のパイロットは、離陸前のタキシー中に重要な計器「迎え角(AOA)」センサーの読みに異常があると気付いた。
(3)離陸直後に機長側の操縦コラム(操縦軸輪)が、失速が近くなると警告して作動する振動を始めた。
(4)高度3000ft(1000m)で主翼のフラップを引っ込めるとすぐに、新しくB-737MAXに装備されたMCASと呼ぶ失速防止装置が作動し、操縦軸輪が機首下げ方向に押した。両パイロットが操縦軸輪を維持しようと試みたが、墜落までの10分間に26回も機首下げ圧力が加わり墜落した。
(5)2019年3月10日、エチオピアの首都アジスアベバからケニア・ナイロビに向かっていたエチオピア航空302便ボーイング737MAXは、離陸直後に墜落して、乗員・乗客157人全員が死亡した。
 2.2 原因
(1)操縦特性向上システム(MCAS)は機外に取り付けられているAOA(迎角)情報を受信して失速の危険があると判断して自動的に機首を下げた。AOAセンサーの誤った情報によってMACSが作動したことによる。
(2)失速を防止するMCASのソフトウェアに不具合があった。
 2.3 対策
(1)ボーイング社は失速防止システム(MACS)のソフトウェアを修正
(2)ボーイング社は、変更が承認されて航空機が再び安全に飛行できるようになるには、航空会社が新たなソフトウェアを導入し、その性能についてフィードバックしなければならないと付け加えた。
 (3)アメリ連邦航空局(FAA)は、ボーイング社がこのMCASの問題点を修正したソフトウェアの書類による審査申請を受け付け、最終的なシミュレーションと実際の飛行試験を前に暫定的な承認を出した。
 (4)ボーイング社はMCASの改修とMCASに関する訓練や教材の拡充を進める。
 2.4 問題点
(1)事故機の墜落が、乗務員の問題か、テクノロジーの問題か、相次ぐ墜落事故をめぐる論争は長期化する見通しであると言われている。
 2.5 参考文献
(1)インドネシア・ライオンエアのB−737MAX墜落事故の原因(TOKYO EXPRESS 2018.12.4)
(2)米ボーイング737マックス2件の墜落に「明白な類似性」=エチオピア運輸省(https://www.bbc.com/japanese/47581427」 1019.3.18)
(3)米ボーイング、自動制御システムの問題認め謝罪 操縦士が最後まで格闘(YAHOOニュース 2019.4.5 10:10配信)
(4)米ボーイング737マックス、墜落原因の疑いがある不具合を修正(BBCニュース 2019.3.29)
(5)焦点:ボーイング機はなぜ墜落したか、エチオピア報告書を検証(ロイター 2019.4.5 16:43)
(6)FAA、墜落の737MAX向け修正ソフトウェアを仮承認。ボーイングは4月の提供に向けて実地試験と説明会を開催(Munenori Taniguchi mu_taniguchi 2019.3.25 pm3:30 in Transportation)
(7)737MAX、墜落2件ともMCASの不具合 月産42機に減産へ(Aviation Wire By Tadayuki Yoshikawa 2019.4.7 8:11)
3.類似点
(1)台湾の鉄道事故では、車両の安全装置「自動列車制御装置」に設計ミス(ハードウエアかソフトウェアかは不明)があった。ボーイング737MAXの墜落事故では、失速防止を図る操縦特性向上システム(MCAS)にソフトウェアの不具合があり、いずれも安全性を強化するシステムに起因している。
(2)台湾の鉄道事故では、運転士が自動列車防護装置(ATP)を切った場合その情報が指令員に通知されないということが「自動列車防護装置」の設計ミスを顕在化させた。ボーイング737MAXでは、AOA(迎角)センサーの誤った情報によってMCASの誤動作につながった。どちらも特殊ケースとか誤った情報または異常値に対する安全システムの検証・テストに問題があったと思われる。
(3)台湾の事故では、列車の遅延が発生して、列車の遅延による料金の払い戻しが予想され、それを回避しようとして制限速度を超過してカーブを走行したことが背景にある。ボーイング737MAXの墜落事故では、飛行機の迎角をチェックするセンサーの異常値または誤った情報が引き金となっている。
(4)両方とも事故により死者が発生している。台湾の事故では、18人の死者と180人以上の負傷者を発生させている。ボーイング737MAXの墜落事故では、インドネシア機で189人、エチオピア機で157人全員が死亡している。
(5)台湾の鉄道事故では、列車の製造元(日本車両)と列車を運行する台湾鉄道との関係。ボイング737MAXの墜落事故では、飛行機の製造元ボーイング社と運行元のインドネシア航空会社およびエチオピアの航空会社パイロットの関係である。
(6)台湾の鉄道事故では、”通常は車両が完成してから鉄道会社に納入されるまでに、車両が仕様通り造られているか入念なチェックが行われる。しかし、TEMU2000型では、ATPを切った際に指令所に情報が伝えられるかどうかチェックは行わなかった。台湾鉄道の指令所に情報が伝えられるかどうかのチェックは日本ではできない。このチェックは納入後台湾鉄道で行っているものと考えていた。”という日本車両の見解には問題がある。日本国内では当たり前でも台湾では当たり前とは限らない。台湾鉄道で「ATPを切った際に指令所に情報が伝えられるかどうかチェックを行っていれば、事前に設計ミスがわかったはず」との見解のように思われる。しかし、そうであるなら、日本車両はその旨文書で台湾鉄道に指示しておき、確認すべきではないだろうか。
(7)ボーイング737MAXの墜落事故では、ボーイング社は墜落の原因が、失速防止システム(MCAS)のソフトウェアの不具合によるものであるとは思っていないようであり、事故機の墜落が乗務員の問題か、テクノロジーの問題か、真の原因を究明する論争が長期化する見通しである。参考文献(4)には、「今回のシステム修正は失速防止システムが墜落原因と認めたわけではない」とある。