−東京電力福島原発と東北電力女川原発の差はどこから生まれたか− |
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1.概況 |
1)2011年(平成23年)3月11日、東北地方の太平洋沖を震源とするM9.0の巨大地震が発生した。震源地は牡鹿半島東南東沖130kmの地点であった。約40分後に高さ13m〜14mにも及ぶ津波が岩手県、宮城県、福島県および茨城県の沿岸に押し寄せた。 |
2)この地震と津波のために、東京電力福島原発は壊滅的な打撃を受け、廃炉作業が行われているが、いつ終わるとも知れないありさまである。一方、震源地に最も近い東北電力女川原発は全くの無傷であった。 |
3)この非常に大きな差異はどこから来たのであろうか。東北電力女川原発の方が震源地に近いのにである。 |
4)震源地と福島原発および女川原発の位置は以下のとおりである。 |
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「福島原発と女川原発、明暗を分けた立地の差(地震)特亜と軍事の時事問題(Yahooブログ」から転載 |
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5)東北大震災における福島原発と女川原発の被害状況の違いから以下のことが言える |
@安全性や信頼性はその企業の経営者の信念によるところが大きい(品質管理も同じ) |
A安全性や信頼性を犠牲として効率とか利益を優先してやっていくと、いつかは足元がすくわれる |
B安全性や信頼性を高める投資を疎かにしたつけは大きく、その莫大な損害に苦しむことになる |
C平井弥之助(元東北電力副社長)の名言”技術者には法令に定める基準や指針を超えて、結果責任が問われるんだ”の重みが痛いほどわかる |
6)参考文献10には、「事故には、その影響が個人レベルで収まる事故(個人事故)とその影響が組織全体に及ぶ事故(組織事故)の二種類がある」と記述している。事故の発端は巨大地震による巨大な津波ではあるが、その津波により「組織事故」を回避した東北電力と「組織事故」に発展してしまった東京電力の違いがどこで生まれたか。原発の安全性、とりわけ地震や津波からの安全性に注力した東北電力と原発の安全性よりも効率・利益を優先した東京電力の経営者の相違であるとわかった。事故発生当初、東京電力の幹部が「今回の事故は想定外」と言っていたことは、東京電力の安全性や信頼性に対する姿勢を端的に示した発言と思う。 |
7)福島原発事故で福島県から群馬県に避難した137人の集団訴訟に対して、2017年3月17日、前橋地裁で判決があり、東電に対して「常に安全側に立った対策をとる方針を堅持しなければならないのに、経済的合理性を優先させたと言われてもやむをえない対応だった」と非難した。(参考文献11.により転載) |
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2.福島第一原発 |
1)構成と着工・運転開始(参考文献4.より転載) |
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2)立地状況(参考文献1.より転載) |
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参考文献9.によると、以下のように記載されている。 |
@立地場所は、元西武の堤康次郎氏が旧海軍から買い取ったもので、当時は高さ35mの台地であった |
A1964年までに東電は堤氏から購入したが、原発建設に当たり、わざわざ25m削った |
Bその理由は、 |
イ)原子炉を建設するにあたり、地震対策として、25m削って比較的しっかりした泥岩層まで掘り下げる必要があると判断したこと |
ロ)大量に必要とする冷却水を取水するためには低いほうが効率が良いこと |
ハ)船着き場から核燃料を搬入するためにも低いほうが良いと判断したこと |
つまり、津波のことは全く想定しておらず、安全性よりも効率優先で考えていたことになる。この点で東北電力と異なるところである。 |
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3.女川原発 |
1)構成と着工・運転開始(参考文献4.より転載) |
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2)立地状況 |
海抜14.8mの高台に原発を建設しただけでなく、津波対策を徹底的に実施したこと(参考文献2.より転載) |
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4.津波来襲時の被害状況の相違 |
1)原発にかかる地震・津波の被害 |
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2)女川原発の施設で発生したその他の事故 |
@1号機のタービン建屋の地下1階でボヤが発生した。火災の原因はポンプを動かす電気を制御している高圧電源盤の中のつりさげ型遮断機が地震で大きく揺れて周囲のものと接触したことによる出火であった。 |
A1号機のタービン建屋で消火活動中にトラブル発生の報知器が鳴動した。原因は最初に冷温停止を達成した2号機で、3機ある2号機の非常用ディーゼル発電機のうち2機が停止したことを告げる警報であった。原因は2号機の原子炉建屋の地下3階に水が溜まって非常用ディーゼル発電機のうち2機が水没したことによる。 |
水没の原因は、潮位を調べるための取水口(屋外の堤防と原子炉建屋の間にある)の蓋が水圧で下から押し上げられて開いたため海水が流入したことによる。(2号機の取水口の蓋が脆弱だった) |
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5.福島原発と女川原発の相違 |
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(注)平井弥之助(元東北電力副社長)の名言: |
”技術者には法令に定める基準や指針を超えて、結果責任が問われるんだ” |
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6.参考文献 |
参考文献1.「福嶋原子力事故調査報告書(中間報告)」(平成23年12月2日 東京電力) |
参考文献2.「女川原子力発電所が助かった理由」
(http://oceangreen.jp/kaisetsu-shuu/Onagawa-Tasukatta-Riyuu.html) |
参考文献3.東京電力福島原発と東北電力女川原発の差はなぜ起きたのか?原発問題はいまこそ事業者の資質の検証を!(現代ビジネス)( http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38544 ) |
参考文献4.「福島原発と女川原発、明暗を分けた立地の差(地震)特亜と軍事の時事問題」
(Yahooブログ)(http://blogs.yahoo.co.jp/check_your_dead_6/28367328.html ) |
参考文献5.「女川原子力発電所の概要および東日本大震災時の対応状況」(第1回安全性検討資料 平成26年11月11日 東北電力) |
参考文献6.「女川原子力発電所における津波に対する安全対策評価と防災対策」(東北電力 松本康男) |
参考文献7.「東北電力・女川原発の津波対策と平井弥之助」(2012/8/23)
( http://kogani.com/text/now_thinking/i_wonder_10.html ) |
参考文献8.「電力と震災−東北「復興」電力物語」(町田徹著 日経BP 2014年) |
参考文献9.「農と島のありんくりん−あ、まずい福島第1原発は低いんだ!と元東電社員は言った」
( http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2011/05/post-825f-1.html )
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参考文献10.「組織事故」(ジェームズ・リーズン著、塩見弘監約/高野研一・佐相邦英訳、日科技連 2003年) |
参考文献11.「日本経済新聞」(2017/3/17 15:50) |
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