品質管理とは
品質管理の講義で使用している教材
なぜ、事故は繰り返されるのか(その1)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その2)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その3)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その4)
 なぜ、事故は繰り返されるのか(その5)
なぜ、18年間無事故だったのか
なぜ、事故は繰り返されるのか(その7)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その8)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その9)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その10)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その11)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その12)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その13
なぜ、事故は繰り返されるのか(その14)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その15)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その16)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その17)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その18)
なぜ、事故は繰り返されるのか(その19)
参考文献
−コスト削減、納期優先がデータの意義を狂わせた−
1.事故の概要
 品質や性能を表すデータが改ざんされる事故が頻発している。報道により明らかになったデータの改ざんとして以下のものがある。なお、ここでは、こういったものを「データの改ざん等」という。
1)東洋ゴム工業では、免震ゴムの「免震データ偽装」が発覚(2015.3.13判明)
2)東芝では、不正経理処理による「利益のかさ上げ」が発覚(2015.5.8判明)
3)ドイツのフォルクスワーゲンでは、「排ガスデータの不正」が発覚(2015.9.18判明)
4)旭化成建材では、「杭打ちデータの不正流用」が発覚(2015.10.14判明)
5)ジャパンパイルでも、「杭打ちデータの不正流用」が発覚(2015.11.13判明)
6)三菱自動車工業では、軽自動車の「燃費データの改ざん」が発覚(2016.4.20判明)
7)東亜建設工業では、羽田、福岡および松山の空港の「地盤改良工事データの改ざん」が発覚(2016.5.6判明)
2.不正および不祥事の特徴
 上記の「データ改ざん等」の事故には、いくつかの共通した特徴が挙げられる。
1)いずれも、組織的な不祥事であり、所謂、「組織事故」といえる。
2)企業トップは「知らなかった」と言い、企業トップの管理が杜撰と思われるもので、「企業統治」の欠如が原因で、「内部統制」や「内部監査」が機能していなかったと思われる。
3)例外として、東芝の不正経理は3代にわたって企業トップである社長の暴走によるものと言える。
4)安全性、信頼性よりもコスト削減、納期優先に主眼が置かれていた。
5)技術者、エンジニアのモラルや信義といったものが低下しており、不正をしていることに鈍感となっているのではないか。「赤信号みんなで渡れば怖くない」といった心理に似ている。
6)特に、三菱自動車工業においては、2000年と2004年にリコール隠し、不良・欠陥隠しで社会からあれだけ叩かれたのに関わらず、社員のモラルも改善されず、幹部・従業員の教育も行われていなかったようである。当時の経営者は「コンプライアンス順守」を口にしていたが、お題目にしか過ぎなかった。
7)データの改ざんといった不正やごまかし、工事の手抜きといったものはいつの日か暴露されるものであり、暴露されたときには社会や顧客に多大な迷惑をかけるだけでなく、その計り知れない損失は企業の存亡に関わるものであることを経営者だけでなく、従業員全員に浸透させる必要がある。
3.東洋ゴム工業の免震ゴムの「免震データの偽装」
1)不正の概要
@免震装置のゴム製品(地震の際の揺れを吸収して建物に伝わりにくくする製品で、建築基準法上国土交通省の認定が必要)について地震の揺れを抑える能力が足りないのに、不正に申請して国土交通大臣の認定を受けていた。
A東洋ゴム工業は2003年に認定を受け、この際は適正なデータであったが、2006年と2007年、2011年に類似製品3件の認定を受けた際に、不適切なデータにより、認定を不正に取得したとされている。
B当該製品は、「高減衰ゴム系積層ゴム支承」と言われるもの
C2015年3月13日、国土交通省は認定を取り消した。
2)影響
@これらの製品は2015年2月まで販売され、全国18都道府県で55棟合計2052基の免震材に使われた。55棟には病院やマンション、工場、倉庫などが含まれている。
A内訳は、高知県で9棟、神奈川県が6棟、宮城県と東京都、愛知県がそれぞれ5棟、静岡県と三重県がそれぞれ4棟、埼玉県が3棟、茨城県と岐阜県、大阪府、愛媛県がそれぞれ2棟、福島県と新潟県、長野県、京都府、香川県、それに福岡県がそれぞれ1棟
3)参考文献
@朝日新聞デジタル(2015.3.13 20:05,2015.3.14 2:32
A日本経済新聞(2015.3.13 20:32
B時事ドットコム(2015.5.8)
C日刊ゲンダイ(2015.3.19)
D読売新聞(2015.3.22.)
4.東芝での不正経理処理による「利益のかさ上げ」
1)不正の概要
@東芝は2015年5月8日、過去に不適切な会計処理が行われていたとして、2015年3月期連結決算の公表を6月以降に延期すると発表
A不適切な会計処理が行われていたのは、同社の社内カンパニーであるコミュニケーション・ソリューション・システム、社会インフラシステムの3社とその関連子会社
B2015年7月20日に提出された第三者委員会の調査報告によると、2008年度から2014年度第3四半期まで、不適切会計の額は計1518億円に上る。自主チェック分を合わせると、利益がカサ上げされたのは累計1562億円。
2)きっかけ
@前社長の佐々木則夫副会長、前電力システム社社長の五十嵐安治氏が電力部門を統括していた時代、特に東京電力福島第1原発の事故の後は、予算達成の要求が厳しくなっていたという。
Aそこで、予算の帳尻を合わせるために、“活用”されていたのが「工事進行基準」だった。
B「工事進行基準」は、工期の長い案件で、工事の進み具合に応じて売上高や費用を立てる会計基準である。金額をどのぐらい計上するかは、見積に左右される部分もあり、予算必達のために、この基準が“活用”されていた節がある。
3)参考文献
@毎日新聞(2015.4.8 21:32
Aダイヤモンドオンライン(2015.5.15 18:40 配信)
B週刊東洋経済 (編集局記者 富田頌子 2015.8.2)
5.ドイツのフォルクスワーゲンで「排ガスデータの不正」
1)不正の概要
@フォルクスワーゲン(VW)の自動車から北米の排ガス規制をはるかに上回る窒素酸化物(NOx)が検出された。(米国のダニエル・カーダー氏)
A排ガス規制の試験を行ったときには、試験をパスしていたのに、実際に販売された自動車を試験すると、規制値を最大で35倍も上回るNOxが検出された。
Bコンピュータ制御により排ガスをクリーンにすれば、それに伴ってエンジンの性能(出力および燃費など)が下回ってしまう。エンジンの性能が低下するとカタログに掲載できる数値も悪くなって、競合他社との販売競争に影響する。
CVWはディーゼルエンジンを採用している。ガソリンエンジンと異なり、ディーゼルエンジンの燃料は軽油である。燃費が安い反面排出される物質に毒性が高いという欠点があった。「コモンレール」という新技術により、クリーンディーゼルを達成してきた。
2)影響
@米国では違法ソフトの搭載に対する制裁金が、最大で2兆円以上に上ると報道されているし、欧州でもリコールの規模が1100万台に達すると伝えられている。
AVWと米国当局は、6月28日VWが総額147億ドル(約1.5兆円)を支払うことで和解した。
3)参考文献
@NHKクローズアップ現代No.3718(フォルクスワーゲンで何が−排ガス不正の真相―2015.10.19放送)
A日経ビジネス「VMはなぜ不正に手を染めたか」(2015.10.13)
B日本経済新聞(2016.6.28 23:12更新)
6.旭化成建材での「杭打ちデータの不正流用}
1)不正の概要
@杭打ち施工を行った旭化成建材の工事担当者が「地盤の強度を記録し損ねた」と、他の地盤データを転用・加筆した。
A横浜市都筑区のマンション「パークシティLALA横浜」の4棟で473本の杭が打たれた。このうち傾いた建物を含む3棟で計38本分のデータに転用や加筆があった。
B杭打ちを巡るデータの改ざん以外にも、施工時に杭を補強するためのセメントの量を改ざんしていた。
C杭は全4棟で473本あるが、二つの改ざんに関わる杭は少なくとも3棟で70本に上る。
D旭化成建材が杭工事をした物件は3040件、その内で当該工事担当者が杭工事をした建物は41件。
2)背景
@複雑な工事体制
A無理なスケジュール
約3カ月の工期中に810本のコンクリート製くいをマンション敷地内に打ち込んでいた
B複雑な地形
・「パークシティLaLa横浜」は南側に川が流れており、砂や泥が堆積した土地と、北側の堅めの地盤の境目となっている。つまり、柔らかい地盤と固い地盤が混在している。
3)参考文献
@産経新聞(2015.10.23 7:55配信)
A朝日新聞ディタル(2015.10.22)
Bダイアモンドオンライン編集部(2015.10.24)
7.ジャパンパイルでの「杭打ちデータ不正流用」
1)不正の概要
@ジャパンパイルの物件18件に工事データの流用が判明。基本的には旭化成建材と同様と思われる。
2)参考文献
@ライブドアニュース(2015.11.13)
7.三菱自動車工業での「軽自動車の燃費データ改ざん」
1)不正の概要
@不正が発覚したのは4車種(ekワゴン、ekスペース、ディズ、ディズルークス)。ディズとディズルークスは日産自動車が販売。なお、その後社内調査で、コルト、ギャランフォルティス、アウトランダーにも同様の不正があると判明した。
A国土交通省の燃費試験で届け出る「走行抵抗」の数値を意図的に低くして、実際より燃費がよく見えるように机上計算により改ざん、データを補正(捏造とみられる)していたという。
B燃費性能の基礎データ「走行抵抗値」を「道路運送車両法」の規定(惰行法)とは異なる「高速惰行法」で計測していた。
なお、スズキ自動車でも同様の違反が、2016年5月18日に明らかとなった。
2)背景
@軽自動車の燃費競争の激化、シェア争いがあり、かつ他社に比較して研究開発費が見劣りするくらい少なかった。
Aekワゴンは2011年7月の開発当初の燃費目標は1リットル当たり28キロであったが、他社から1リットル当たり28.8キロの車が発売され、2012年11月には、29キロに引き上げられ、その翌月には29.2キロに引き上げられた。
3)参考文献
@毎日新聞(2016.5.8 9:00 配信)
A三菱自「燃費不正」問題の測定方法『惰行法』と『高速惰行法』の違いとは(評論家コラム 2016.4.28
B初公開!「研究開発費が大きい」トップ300社(東洋経済オンライン編集部 2016.4.25)
C背景に「軽」の燃費競争とシェ争い−三菱自のデータ不正(時事ドットコムニュース 2016.4.21
D三菱自動車他社の販売に合わせ燃費目標引き上げ(RSSNEWS)
EDIAMOND online「三菱・スズキと国とで「不正」の認識が食い違う理由」(ジャーナリスト桃田健史,2016.5.23)
F朝日新聞 DIGITAL( 2016.6.15 03:02)
8.東亜建設工業で羽田・福岡・松山空港の地盤改良工事データの改ざん
1)不正の概要
@羽田空港のC滑走路、福岡空港および松山空港の滑走路で、巨大地震に伴う液状化現象を防ぐための地盤改良工事で仕様通りに施工せず、これを隠蔽するため施工データの改ざんが行われ ていた。
A羽田空港では、同社の担当区域のうち、幅60メートルある滑走路西端の長さ計75メートルの地盤で、同社が独自工法の「バルーングラウト工法」を採用した。滑走路脇から滑走路直下へ地中を斜めに掘削して管を通し、薬液計約1250万リットルを注入する計画だった。薬液を地中に注入すると、地下水がゲル化して直径約2メートルの球状の塊(バルーン)となり、地盤を強固に改良するものだった。
B地中に想定外の障害物があったことなどから掘削がうまくいかず、地中に275本の管を通すはずだったが、231本にとどまり、いずれも計画位置とずれていた。このため薬液も予定の5%程度の67万リットルしか注入できず、計1万450個できるはずだったバルーンも5825個だけで、直径2メートルまで膨らんだものは一つもなかったという。
C港湾工事でも同様のデータ改ざんの疑いがあったとわかった
2)背景
@2次下請け会社の作業員が1次下請けに報告して問題が発覚。常務執行役員は「失敗の許されない工法で、プレッシャーがあった」
3)参考文献
@読売新聞(2016.5.7)
Aサンケイビズ(2016.5.7 6:25)
B時事ドットコムニュース(2016.5.13)
C時事通信(2016.5.20 10:41配信)
9.データ取得に対する心構え
いろいろな場面で、データを取得することが行われるが、その場合の心構えとして以下のことが考えられる。
1)データの取得にはそれぞれ目的がある。一般的には、以下の目的が挙げられる。
@製品・サービスの良否の判定の根拠に使用する
A品質改良、性能向上、トラブルシュートなどの分析のために使用する
B数値目標などがある場合には、その目標を達成しているか否かを判定する場合の根拠として使用する
C試験などの結果として第三者が確認するために使用する
Dデータの一部が製品・サービスの性能などの一部として製品やサービスのカタログなどに記載されることがある
2)データは特性値としての意味を持ち、そのものの性質を表していることがある
3)データは、常にばらつくものである(ばらつかないデータは偽物である)
4)したがって、データは20個〜30個取得する必要があり、取得したデータについて最大値、最小値、中央値、平均値、標準偏差を把握しておく必要がある
5)取得したデータについて、その目標値又は期待値と差異があっても取得したデータを変更や書替え(これを「改ざん」という)をしてはならない。また、測定もせずデータのでっち上げ(これを「捏造」という)をしてはならない。データの「改ざん」や「捏造」は不正行為である。
6)特に、実際に想定しなかったにも関わらず、他のデータを転用するなどによる「データの偽造」行為は厳に戒めなければならない
7)データを測定する場合には、測定環境、測定方法・手段、使用する測定機器などを明確にしなければならない。特に、法令などでこれらのことが決められている場合には、その規定に従って測定しなければならない。
8)データを記録する際には、測定したデータだけでなく、測定日、測定環境(天候、気温などを含む)、測定方法・手段、使用した測定機器および測定者を記録しなければならない。
8)技術者は、データの取得に際して、常に信念とモラル・信義を持たなければならない
以上